2008年9月3日水曜日

理研のシンポジウムに参加しました


公開シンポジウムと討論会
「細胞・発生研究への数理科学的アプローチ〜先端研究から探るアクションプラン」

1.概要

日時
9月2日(火) 10:00−18:50
9月3日(水)  9:00−17:00

場所
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
C棟1階オーディトリアム(定員140名、日本語、事前登録)

主催
独立行政法人理化学研究所

2.本シンポジウムのねらい

本シンポジウム(主催、理化学研究所)は、「細胞・組織スケール」でのライフサイエンス研究における次世代の研究の方向性を探る目的で、特に複雑な生命現象を多次元・多階層で理解するために不可欠な数理科学との融合に焦点を当てて行うものです。

分子生物学・細胞生物学などの研究進展により、この十年間でライフサイエンス分野の研究は大きく前進いたしました。ゲノム研究、幹細胞研究、脳科学研究など重点的に推進された研究からは、特に多くの新たな知見が次々と生み出され、まさに日進月歩の目覚ましい進歩を見て取ることができます。

こうした研究は生命現象の基礎となる要素(エレメント)に関しての大量の情報を生み出してきました。一方で、次のレベルの生命科学の発展には、如何にこれらの多数の要素がシステム化され、複雑な生命現象自体を引き起こすのか、という問いに挑むことが不可欠となってきています。こうしたなか、遺伝子そのものを扱うゲノムインフォーマティクスや、タンパクの分子レベルの挙動を研究するタンパク構造科学や分子動力学などは、いち早く数理科学・計算科学との融合を進めて来ています。

これに比して、細胞生物学や発生生物学などの「細胞・組織スケール」の研究では、これまで数理科学・計算科学との接点が比較的限られたテーマに留まる傾向がありました。
それは、

1. 分子動力学などと異なり、「基本方程式」が存在せず、model-based approachに加えて、data-drivenの考え方を併用する必要があること
2. 従来のゲノムインフォーマティクスと異なり、細胞・組織スケール研究の対象では、多数の要素について質的な取扱いがヘテロであり、また多階層にまたぐことが多い

を始めとするいくつかの本質的な問題点が存在したことにも起因します。

しかし、「細胞・組織スケール」は細胞生物学や発生生物学に限らず、多くの生物・医学研究(ガン、脳、免疫その他)にも共通した生命現象の基本単位を対象とする研究であり、また現在最も爆発的に研究が進展している生命スケールでもあります。

このシンポジウムでは、実験(ウェット)、理論(モデル)、計測・摂動の3つの観点から専門家の先生方にお集まりいただき、「細胞・組織スケール」を中心とした細胞・発生研究と数理研究の融合を目指した最前線の研究をご紹介していただきます。

また、理化学研究所では、次世代スーパーコンピューター(ペタコン)の設置を神戸市ポートアイランドに進めており、2012年度末に完成を予定しております(初期稼働は2011年度末)。これに伴い、生命科学分野での次世代計算機利用の戦略を積極的に計画しております。そうした取り組みや研究開発のご紹介を併せて行います。

「細胞・組織スケール」での数理科学とウェット研究の融合による強力な研究推進体制のあり方について、専門家の先生方と参加者による自由な討論セッションを2日目の午後に計画しております。生命現象の統合的な理解を進めるために解決する必要のある「ギャップ」を、多面的に討論し、次世代研究へのアクションプランにつなげることを期待しております。

幅広い専門性をもたれた研究開発者の皆様のご参加をお持ちしております。

プログラム(敬称略)

1日目 9月2日(火)

茅 幸二   開会のご挨拶
笹井 芳樹  Introduction

Session I  Data-driven approachを中心に

大浪 修一  初期胚の構造と形態のダイナミクスに対する定量的計算科学的アプローチ
澤井 哲   細胞と細胞集団の自己組織化
三浦 岳   発生における自発的パターン形成 : Toy model と定量

松本 健郎  細胞・発生研究へのバイオメカニクス的アプローチ
小椋 利彦  Epigenetic morphogen としての力学的、機械的刺激
竹内 昌治  マイクロ流路デバイスを利用した先端計測

Session II  Model-based approachを中心に

近藤 滋   Turing の先には何がある?
本多 久夫  形態形成研究のための3次元細胞モデル
安達 泰治  生体組織・細胞力学構造の機能的適応:システムバイオメカニクス

柴田 達夫  細胞スケールの自己組織化現象:イメージ・データ解析と数理モデル
森下 喜弘  形態形成過程を理解するために必要な理論とは?
      —脊椎動物の肢芽形成・伸張過程を例に—
望月 敦史  生物学的に有意義な理論を目指して


2日目 9月3日(水)

Session III  計測・摂動技術のcutting edge

上田 泰己  定量的な計測・摂動および設計による生命システムの理解
寺北 明久  ロドプシン類のシグナル伝達の多様性と生命システムの制御への応用の可能性
徳永 万喜洋 分子1個と細胞システム

斎藤 通紀  単一細胞マイクロアレイ法:応用、発展、課題
佐甲 靖志  細胞内反応の1分子測定
神崎 亮平  分析と統合による昆虫の適応能の理解と活用

Session VI  次世代計算機機構と生命科学分野への応用:理研の取り組みと研究例

姫野 龍太郎 次世代スーパーコンピュータ開発と生命科学でのグランドチャレンジ
横田 秀夫  シミュレーションのための細胞の数値化と情報処理に関する取り組み
姫野 龍太郎 組織モデリングへの挑戦 〜血管形状決定のメカニズムの解明に挑む〜

討論テーマ1 

討論テーマ2

アクションプランの総合討論


【感想】

まずはじめに、活発で自由な討論と建設的な提案をするようにとのアナウンスがありました。2日にわたる公開シンポジウム中は、ほんとうに活発な議論が交わされていました。

また、各発表の後には提言のコーナーが設けられ、今後の研究の方向性・連携体制・10年後を見据えた長期的目標・人材育成などについて個々の発表者の先生方がコメントされていました。

2日目にはそれらの提言に基づいたフリーディスカッション(オープンブレインストーミング)が展開され、多くの先生方から熱心なコメントが出されていました。事務局側のナビのもと発散した議論はだんだん収束し、提案された事柄はテキストとしてまとめあげられ、その様子がリアルタイムでプロジェクタに移し出されていました。

理研の行動力と決断力に基づいた発展性が垣間見えました。

  ・30年先までを見据えた研究目標の設定
  ・ウェットとドライ、実験と理論、データと数理モデルをいかに結びつけるか
  ・多領域横断型研究推進の仕組み作り
  ・具体的な技術開発の提案(スパコンの利用も含め)
  ・人材育成

などについて非常に充実した討論が繰り広げられました。私の所属部局もうまく連携できると大きな研究の輪になるな、なんて思いながらメモをとりました。(議事録マインドマップです↓)



【関連サイト】

* 公開シンポジウムと討論会|理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)
* 次世代スーパーコンピュータのシステム構成を決定|独立行政法人 理化学研究所プレスリリース
* 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)

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