2009年1月17日土曜日

ポスドク問題を解決するために私たちができること

大阪大学 先端科学イノベーションセンター 科学技術キャリア創成支援室主催の理系キャリアセミナーに参加してきました。

学部3回生、院生、ポスドク、特任教員、助教、教授の方々が100名以上集まられていました。会場は満員で、参加者の皆様も積極的に発言されていて、活発なセミナーでした。

助教になるため・・・というよりは、博士人材の生き筋について考え、議論し合う場でした。私が学び、考えたことを記しておきます。

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理系キャリアセミナーVII
データから考える博士人材のキャリアパス
〜助教になるには〜

http://www.osaka-u.ac.jp/jp/seminar/367.html
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【『博士の生き方 キャリアパスの現状と展望』日経BP社 宮田 満 氏】

まず、世界経済の動向の説明からお話は始まりました。ここで挙げられたキーワードは、ナレッジベースとグローバリゼーションの2つです。

まず、これまでの産業は、天然資源や工業製品などのマニファクチャーをベースに発展してきました。しかし、今や製薬業や情報通信業といったナレッジをベースとしたに移行しつつあるということでした。したがって、今後はいかに情報を利用していくか、良質の情報を生み出せるかということが重要になるのでしょうね。

つぎに、ネットワークの進歩によりグローバル化が加速しているということを話されました。物流のみならず、資本・情報・人材までもが世界規模で取引されたり、共有化されたりするようになっています。このような動きは企業では顕著なのだそうで、大学ではやや遅れ気味であることを宮田氏は指摘していました。この点は実は大学にとって重要なポイントだと思いました。なぜなら、大学はそもそも知識集約の場であるからです。したがって、大学もグローバル化をさらに進めることが、さらなる発展につながるのでしょう。またこれにいって、前述のナレッジベースの社会への変化が、大学にとって追い風となることでしょう。


本題に入る前に、宮田氏は私たちに2つの質問をされました。

  1.いつも時価を最大にするのが最良の選択か?
  2.いつ、時価を最大にすべきか?

宮田氏の意見は、後ほどご紹介します。


本題の前半では、日本国内の博士取得者の動向について解説されました。博士取得者は15年ほど前から比べて倍増しているにも関わらず、アカデミックポストの数はほとんど変わっていないとの統計値でした。さらに、今後は教員定年延長によるポスト不足と少子化による定員減少による大学数の減少により、ますますアカデミックポストの増加は望めないのが現状です。これが、このブログでも以前取り上げたポスドク問題として最近一般的にも認識が広がりつつある事実です。

後半では、阪大内のアカデミックポストの数と在任者の平均年齢についての調査結果が示されました。平均的には、30~40歳の間に助教、講師、および準教授になられているそうです。このような調査結果はおそらく日本で初めての試みであろうということでした。科学技術キャリア創成支援室の調査力の賜物ですね。

▼質問に対する宮田氏の意見

1.いつも時価を最大にするのが最良の選択か?
 → 必ずしもそうではない。
2.いつ、時価を最大にすべきか?
 → 長期的展望
 → 常なるチェック
 → 運・不運のマネジメント


宮田氏のご講演のまとめです。

現在のポスドク全員をアカデミックポストで吸収することは不可能である。アカデミックに対する固定概念を捨てて、アカデミックポストへ固執せず、幅広い業種に視野を広げて社会に貢献出来る人材になるべきである。これから数年の博士取得者の生き方が、現在の学生の良いロールモデルになる。自らの手で仕事を創り出していこう。


★博士取得者向けのリクルート情報も紹介されました。

PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)採用情報
35-45歳で、チーム力があり柔軟な思考を持った研究者を随時募集しているとのことです。審査は、論文と面接により行われるそうで、採用率は10%くらいだそうです。ライフサイエンス分野の審査を担う職で、企業よりはアカデミアに近い業種とのことです。現在、人材が非常に不足しているので、求人中だそうです。


【パネルディスカッション】
ファシリテータ:
 宮田 満 氏 (日経BP社)
パネリスト:
 兼松 泰男 教授 (先端科学イノベーションセンター)
 福崎 英一郎 教授 (工学研究科)
 小林 傳司 教授 (コミュニケーションデザインセンター)

<質問:(宮田氏)助教になるにはどうしたら良いのか?>

(兼松教授)ポストの選考法について

一次選考の書類審査では、論文数を評価し、二次審査では、人柄を審査する。大切なのは、採用する側にとって、一緒に働きたいと思える人材であること。また、申請者の人となりが予め分かっている場合は審査しやすい。

(福崎教授)求められる博士力

*学歴・専門・国際経験
*受動的能力(専門知識・語学力)
*能動的能力(提案力・説得力・リーダーシップ)
→ リアリストたれ!
   自分の棚卸しを行い、博士力をチェック
   不足しがちな能力の開発に心がける
   国や業種に対するこだわりを捨てる
   大企業至上主義からの脱却

(小林教授)全員が助教にはなれない。できるとしたら生まれ変わるくらい。

現在の状況からすると、アカデミックポストにつけるかどうかは運任せに近い。周囲との競争から、協同へ。これは、アライアンスが大切だと言うことですね。
博士取得者が集まって、国家政策への提言を行うべき。
参考:日本の科学技術政策の要諦(PDF)

<質問:能動的な活動事例の具体例とは?>

(小林教授)ポスドクは一人で悩んでいる。

最近10年程度に整備された新しい制度で進んでいるので、問題が発生して当然であるし、教授世代は経験がないため認識がないと考えるべき。そこで、博士取得者は、ネットワークを形成し、継続的にキャリアパスに関する情報を集積・共有していく必要がある。また、そのような活動を通して、様々な要望を政府に提案していくことによって、次の世代の研究者の環境が整うことになる。

<質問:助教はそんなに良い職のか?>

(兼松教授)自分のやりたいことを深く突き詰めると・・・。

自分のやりたいことは悩んでいるだけではだめで、人と話すことによって方向性が決まる。そうすると、求めている職種は、必ずしもアカデミックポストでないこともある。

<質問:(宮田氏)本セミナーのまとめ>

(小林教授)大学は研究所ではない。

大学教員は、研究職ではないことを認識すること。まず、教育ありきで、研究がある。ただし、大学の研究所は研究職である。音楽・歴史・政治・思想について語れる大学人になってほしい。

【感想】

確かに、政策上の不備と景気悪化によって、ポスドク問題の解決は困難化しています。しかし、私たち自身が漠然と不安に陥っているのではなく、むしろ能動的に活動することが、次世代の研究者の卵が育つ環境を整えることに繋がると認識しました。

私も自分の出来ることをやっていきます。


【参考書籍】

■ 1の力を10倍にする アライアンス仕事術 平野敦士カール 2008
昨年非常に注目された仕事術の本です。平野氏は「お財布ケータイ」の開発者です。元々専門家ではなかった彼が「お財布ケータイ」の開発に成功した理由は、周囲を巻き込んで仕事を進める力にあったそうです。


【関連サイト】

* ポスドクの厳しい現実(2009/01/19 RANKING MAIL 第1238号)|ウェブマスターの憂鬱
今回のセミナーに関して、宮田 満 さんのブログに記事が更新されました。


【関連記事】

● 第4回キャリアサロン―PhDのためのジョブハント
 PhDが就職するためにすべきことについてまとめています。科学技術キャリア創成支援室のセミナーです。

● デキる大学院生になろう!
 大学院生が研究生活の間に心得るべき事柄についてまとめられた本を紹介しています。

● 【研究本】大学院生のためのアタマの使い方
 企業に入って活躍できる人材になるために考えるべきことが書かれています。

● 学生のうちにしておくべきこと
 学部生・大学院生の時にしか、できないことをまとめて、記事にしています。

● キャリア・アドバイス
 働くことにおいて、心構えについて書いています。

● ポスドク問題
 最近報道されている、ポスドク問題について記事にしています。

● 【研究本】理系のための研究生活ガイド
 研究を始める学生に向けて書かれた本の紹介です。

● 1の力を10倍にする アライアンス仕事術 平野敦士カール|山といえば川
 コメントも頂いた平野敦士カールさんの著書をまとめています。


【コメント御礼】

*つーかー さま 自己発信による成長のためのブログ!
*平野敦士カール さま 東大ハーバードで教えない年収3000万円超★オススメビジネス書アライアンス★

6 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

はじめまして。

自己発信による成長のためのブログ!(http://blog.livedoor.jp/lylmekrhyme/)をしている者で、セミナーにも参加させていただいたものです。

セミナーの内容が完璧といっていいほどに再現されていて驚きました。

僕は現在、学部生ですが進路選択においてポスドク問題のこれからの動向には強い関心を持っております。

個人的にはいわゆるテクニシャンのような職を充実させるのが一番ではないかと思います。

大学のアカポスを増加させることはできませんが、圧倒的に人手が足りていない研究分野はあります。たとえばiPS関連の研究をしている人は、趣味がもてないどころか家族も犠牲にしなければならないほど多忙な生活をしているという噂を聞きます。

このような分野にうまく博士をまわせないものかと思います。もちろん待遇も社会的地位もある程度、保証しなければならないですが、アメリカのモデルに倣えば短期間での実現も可能でないかと思ってます。

chample さんのコメント...

つーかー さま

コメントありがとうございます。

学部生の方が参加されていることを知り、驚いたのと同時に、将来設計されていることが分かり内心安心しておりました。

>個人的にはいわゆるテクニシャンのような職を充実させるのが一番ではないかと思います。

そうですね、アカデミアにももっと分業が進むと良いですね。自分の強みを知って適正な業務を様々なスタッフで分業していくと自分にとっても周囲にとってもストレスが少なくなるように思います。

研究室毎の雰囲気も多種多様です。放任主義からトップダウン型まで自分にあった研究室を選ばれると良いと思います。これから記事にする予定ですが、尊敬出来る先生のもとで研究するのが一番幸せだと思います。

アカポスは今後、僅かには増えるかもしれませんね。それを目指すのも手ですし、私はむしろ、別の方向性も模索していきたいと思います。

ブログのご紹介ありがとうございます。コメントさせて頂きますね。

匿名 さんのコメント...

アライアンス仕事術の著者の平野敦士カールと申します!著書をご紹介いただきありがとうございます
父が医学部の教授、姉も私も大学で教えているので勉強になりました
ただ今はサラリーマン とくにエリートが受難の時代のようです
私は ポスエリ と呼んでいます
まずは成果を世間に認めてもらうのが重要かなと思っておりますhttp://ameblo.jp/mobilewallet

chample さんのコメント...

平野敦士カール さま

コメントありがとうございます。
せっかくたくさんのインプットしてきたのだから、社会に対してどんどんアウトプットしていきたいですね。アウトプットに価値があればあるほど、成果として認められることになりますね。

聞くが価値で講演を聴かせて頂いてから、アライアンスについて常に心がけるようになりました。とても良い本を出版して頂き、ありがとうございました。
http://yamatoiebakawa.blogspot.com/2008/09/110.html

匿名 さんのコメント...

科学によって立つ日本にする、と言うくらいの気概を持って国が対処しないと解決しない問題ではないでしょうか。私はアメリカで研究者として生活していますが、アメリカでは我々のような海外の科学者が不安なくアメリカに来て研究が出来るように公私共に充実したサポート体制が構築されています。特殊技術者には永住権もすぐに付与されます。すなわち世界から頭脳を集めてアメリカの国益にプラスになるようにしているのです。一方、日本では、例えばアジアのリーダーとして多くの頭脳をアジア諸国から集めるまでには至っていないと感じます。そのようなことをすれば短期的にはポスドクの更なる就職難を引き起こしますが長期的には科学産業の発展およびアカデミアの裾野が広がりポストも増えるのではないでしょうか。アメリカに来て世界的視野にたった国策としての科学振興と言うものがいかに重要か思い知らされている毎日です。

chample さんのコメント...

国外からの貴重なコメントありがとうございます。

国際社会は知識社会に移行してきているにも関わらず、日本はその動向に遅れているように思います。

しかし、国も対策を練っているようです。ですからトップダウンに任せるのではなく、ボトムからも支えることによって、この問題は好転していくのだろう。と、セミナーを聴いて思いました。