2008年4月27日日曜日

デキる大学院生になろう!


化学 63/4 2008年4月号
理系「研究力」向上計画 デキる大学院生になろう!

出版社:化学同人
発売日: 2008/4

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 今回は、『化学』という化学系向けの雑誌を紹介します。「デキる大学院生になろう!」と題した特集が組まれていて、学生の皆さんや学生を指導する方にも参考になると思いましたので、気になるポイントをまとめておきます。

【目次】
◆成功する研究力 1
   実験計画を立てるコツ 自由度の高い「中・長期計画」が鍵!
◆成功する研究力 2
   実験を効率的に進めるコツ 実験の基本は「比較」にあり!
◆成功する研究力 3
   パソコン活用術 データの共有化が研究の効率性を生みだす
◆上手なプレゼン法 1
   口頭発表するときの要件 プレゼンの基本は 「あいうえお」
◆上手なプレゼン法 2
   よい理系文書を書くためのコツ 論理的かつ簡潔な文章を目指せ!
◆特許についての考え方
   研究者が知っておきたい知的財産の基礎
◆教育・研究の場で必須の知識
   研究者が知っておきたい著作権の基礎
◆企業が求める研究者
   SF映画から知る研究者の資質

【注目ポイント】

◆成功する研究力 2
   実験を効率的に進めるコツ 実験の基本は「比較」にあり!(片倉 啓雄)

<ネガ/ポジコンを的確に立てる>

 自然科学の実験では、「比較する」ことが基本となります。片倉先生は、この「比較」という観点から、日々の実験・先行研究・日常生活におけるコツを紹介しています。

 「ネガ/ポジコンを的確に立てる」では、実験を行うときに「何」と「何」を比較するのかを明確に設定して、対照実験を行う重要性を指摘されています。コントロールの重要性については、野村 慎太郎 先生が『研究室へようこそ!』で、説明されています。

実験トラブルに対処する
  Positive controlの利用と注意点
実験結果の判断の仕方
  コントロールを忘れていないか?


<日々の実験と研究全体の目的を比較>

 ある目的をもって、研究を開始したにもかかわらず、日々実験をしているうちに、手段が目的化してしまう問題点が指摘されています。これは、日常的に起こりやすい問題で、ついつい細かいことに注目しすぎてしまいます。「木を見て森を見ず」ですね。

 この問題を回避するコツとして、日々の実験の目的と、研究の目的を明文化することが挙げられています。

<材料は新旧で同じ結果が出るか確認>

 試薬のロットが変わって、実験結果が何となく以前と違うなあ〜という、こちらも日々の実験で頻発する問題ですね。こういう時は大体、サンプルも試薬も以前の実験と違います。怪しい場合は、直ちに、昔うまくいったサンプルを使って、新しい試薬を検証しなければなりませんね。

<複数の方法を調べてカスタマイズ>

 ある目的を達成するための手段を常に複数用意しておくべきということです。また、一定の結果が得られた時は、同じ手法で再現性をとることは必須ですが、違う手法で同じ現象を観察するという「石橋を叩いて渡る」心がけもいいのではないでしょうか?

<必ず過去の結果と比べる>

 新堀 聰 先生が『評価される博士・修士卒業論文の書き方・考え方』で述べられている通り、研究とは、そもそも先行研究業績に新しい知見を上乗せして進行していくものですね。ですので、自分の研究の前提となった論文のなかで参考にした実験結果は、ある程度は再現して確認しておく必要があるということですね。

<「比較」を極めるには>

 研究思考を日常生活に浸透させると良いということでしょうね。

◆成功する研究力 3
   パソコン活用術 データの共有化が研究の効率性を生みだす(岡畑 恵雄)

<スライドの原図に通し番号を付ける>

 私自身も、パワーポイントで作図することが多く、これまで作成したスライドもおそらく数百枚に及んでいます。今のところは、自分の記憶と検索を組み合わせて参照していますが、他人のスライドになるとほぼ記憶できていません。そんな問題を解消してくれるコツが紹介されています。その方法とは、スライド1枚につき「A-1-001」という通し番号を記入していくというものです。"A"は個人を、"-1"はプロジェクトを、"-001"は各スライドを特定しているそうです。

<文章はWord, 図はCanvas>

 論文作成やプレゼンテーションに便利な、WordとCanvasを使っているそうです。

<システムの統一でデータを共有する>

 パソコンは、Macに統一されているそうです。私も、OSの使い勝手は、WinよりMacのほうがいいですし、その上、仕事も効率的にこなせています。

◆上手なプレゼン法 1
   口頭発表するときの要件 プレゼンの基本は 「あいうえお」(尾嶋 正治)

<Plan-Do-Seeと「あいうえお」>

 Plan-Do-Seeとは、「計画・実行・検討」のことです。「あいうえお」は、プレゼンの基本となる型のことです。そもそも、なぜプレゼンテーションが必要なのでしょうか?そのプレゼンの必要性については、八幡 紕芦史さんの『戦略的プレゼンテーションの技術』にまとめられていますので、引用しておきます。

 注意を喚起し、興味をもたせ、理解させ、合意させ、決定させ、行動させるためには、人を集め、あなた自身の口から、あなた自身の考え方を聞き手に直接語りかけるプレゼンテーションでなければならない。
つまり、聞き手を行動させるためには、意思決定させなければならないので、次に書かれているように、「心を動かす」必要が出てきますね。

<聞き手の心を動かす3要素>

 1.主張したい中身
 2.発表者の情熱
 3.プレゼンの基本の”型”

<プレゼン「あいうえお」詳述>

 あ:アイコンタクト、自身演出、誠実に!
 い:一番乗りで、会場検分、四股を踏む!
 う:うしろから、大きなPowerPointよく見える!
 え:笑顔をつくって、緊張解消!
 お:大きな声で、腹の底からはっきりと!

 「あ」では、プレゼンの最大の敵は、”恥ずかしがること”であり、誠実さ・謙虚さを相手に感じさせ、自分の主張点を手短に伝えることの大切さについて説明されています。

 「い」は、精神論的理解が良いのではないでしょうか?(四股を踏んでいる人を見かけたことがないので・・・踏んでも構わないのですが・・・)

 「う」は、大切です。細かくて、いっぱい図が載っているスライドを使って、ごく一部を説明する方が少なからずいらっしゃいます。20ポイント以上のボールドを用いることを推奨されていました。スライドの作製上の注意点は、大隅 典子 先生の『バイオ研究で絶対役立つプレゼンテーションの基本』にまとめられているので参考にして下さい。

 「え」で述べられている、『プレゼンは議論(質疑応答)の前座と考えるべきで、議論が本番です』は、良い心がけですね。参考になりました。

 「お」では、『大きな声で、ゆっくりと、力強く語りかけること』と述べられています。一般的に、日本人は、ゆっくりした話し方のほうが、説得力を感じ、安心感を与えるようです。ちなみにアメリカではこの印象が逆転し、早口だと、説得力があり、知的であると判断されるそうです。専門家が集まる小さいプレゼンなら、早口でも通るのでしょうが、いろいろなバックグラウンドを持った聴衆が集まる場合は、ゆっくり話すのが良さそうですね。

<“美味しいプレゼン”を目指そう>

 本文から、引用しましょう。
「世の中に面白い話を聞く以上の楽しみはない。つまらない話を聞かされる以上の苦痛はない」

 プレゼンテーション(presentation)の語源が、贈る(present)であることを考えると、喜ばれる内容、サービス精神が大切なのは当然ですね。

◆上手なプレゼン法 2
   よい理系文書を書くためのコツ 論理的かつ簡潔な文章を目指せ! 村上 雅人

<上手い文章を書くための基本>

 本文から、2つのポイントをまとめておきます。

 1.良い文章に触れる
 2.上手い文章を真似して、書く訓練をする

<辞書を座右のに置いて書く>

 いろいろな辞書をそばにおいて、用語の正しい意味を確認しながら書くべきであると述べられています。

<推敲を重ねるほど文章はよくなる>

 推敲とは、『詩文を作るとき、最適の字句や表現を求めて考え練り上げること。』を意味します。納得のいくまで、自分の書いた文章を修正して磨くべきであると述べられています。

<事実と意見を区別して書く>

 論文は、実験データや先行研究などの客観的な事実を示した上で、自分の主観的な意見を主張するために書きます。したがって、どこまでが事実で、どこからが意見なのかを明確に区別する必要があります。

 また、研究者の使命と失敗への取り組み方の姿勢についても述べられていたので引用します。

研究者の使命は、はじめからものを否定することではなく、何か問題点なのかを明確にして、それをいかに解決すべきかに挑戦することである。

世の中の失敗には、本質的なものではなく、やり方に問題のある場合も多い。それを精査せずに、最初の結果だけで判断したのでは、ブレイクスルーは決して生まれない。

 この文章を書き出していたら、三洋電機の”エアウォッシュ”洗濯乾燥機開発チームの記事を思い出しました。

「いつからか『できない』と言っても周囲から”それやったんか? 絶対ダメなんか? 可能性はゼロなんか?”と聞かれるようになっていたんです」

 できないと思ってやっていても、できるはずがなく、できると思ってやるからこそ、可能性が見えてくるといことでしょうね。

<好きこそものの上手なれ>

 1.良い文章を書くために、「自分が本当に書きたいもの」があるか?
 2.結果が得られたら、それをすぐにまとめること。

 2.については、論文を書くタイミングについて酒井 聡樹 先生が『これから論文を書く若者のために』に述べられていることと同じですね。「鉄は熱いうちに打て」ということですね。
 
<理系の文書>

 理系の文章は、文学的表現にならないように、具体的に、定量的に書くべきであるという注意点が挙げられています。


【参考書籍】

(1)はじめて研究室に配属される人に向けて書かれた良書です。

研究室へようこそ!—どこにも書かれていないバイオ研究室の実態

野村 慎太郎


(2)論文の書き方の基本を解説しています。

評価される博士・修士卒業論文の書き方・考え方

新堀 聰


(3)プレゼンの必要性から技術まで詳細に解説されています。

戦略的プレゼンテーションの技術—オープンな意思決定のために

八幡 紕芦史


(4)研究室でのプレゼンに大変役立つ一冊です。

バイオ研究で絶対役立つプレゼンテーションの基本

大隅 典子


(5)三洋電機の”エアウォッシュ”の開発過程についての記事が掲載されています。

セオリービジネス vol.1 (2008) (1)

講談社


(6)論文を書く心構えから、実際の手順まで詳細に解説されています。

これから論文を書く若者のために 大改訂増補版

酒井 聡樹


【参考サイト】

(1)Plan-Do-Seeについての解説
ビジネスの基本:仕事の基本(Plan - Do - See)

(2)プレゼンテーションの方法とパワーポイントの使い方の解説
泣ける!!プレゼンテーションへの8つのステップ

(3)推敲についての故事成語のエピソード
故事成語で見る中国史:推敲

(4)大阪市立大学 坂上 学 先生 レポート・論文作成の手引き
1.論文作成のための予備知識

【バックリンク】

● プレゼンテーションをするために注意したいこと
● Life Sciences Career Day in IPRに参加しました
● 学ぶということが創造的である
● 大学院入試と就職活動
● 面接に成功する3つのポイント

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