システムバイオロジー—生命をシステムとして理解する
北野 宏明
303ページ
出版社:秀潤社
ISBN:9784879622402
発売日: 2001/06
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【目次】
第1章 システムバイオロジー インフラクトラクチャー
1 システムバイオロジーのためのソフトウエア基盤
2 生物学におけるシミュレーションの意義
3 シミュレーションへのアプローチ
3−1 モデルの記述と枠組みの定義
3−2 ブラックボックス化
3−3 モデル構造の決定
3−4 パラメータ決定
4 シミュレータの現状と構造
5 技術的課題
5−1 確率過程のシミュレーション
5−2 数値計算誤差
5−3 理論的枠組み
5−4 標準化
6 実験と計測
6−1 網羅的計測
6−2 定量測定
6−3 体系的測定
7 実験・測定装置の開発事例
【注目したポイント】
今回は、前回に続いて、北野 宏明 さんの著書「システムバイオロジー」の1章『序章 第1章 システムバイオロジー インフラクトラクチャー』をご紹介します。
システムバイオロジーは、研究に必要なインフラクトラクチャーを整備する必要があります。インフラクトラクチャーとは、基盤となる環境のことです。では、なぜインフラクトラクチャーを整備する必要があるのでしょうか?それは、生命現象をシステムレベルで理解のためには、どうしても大規模実験や高精度実験が要求されるだけでなく、取得したデータをモデル化・シミュレーション・解析を行う必要があるからです。
1 システムバイオロジーのためのソフトウエア基盤
先に述べたとおり、大規模なデータ解析をするためには、ソフトウエアが、非常に重要な位置を占めることを北野先生は指摘されています。また、システム解析の一連の過程の中でも、シミュレーションが注目されがちであるが、統合されたシステムのごく一部を構成する要素にすぎないことも注意されています。具体的なシステム構成についても紹介されていたので引用します。(ただ、このシステム構成は、システム構造の理解とシステムの動的挙動の理解を目的としているので、システム制御とシステムデザインにまで踏み込んだ構成になっていないそうです。)
(1)データ収集・データベースシステム:
実験データを収集し、データベース化し、この統合環境で利用できるように整備するシステム
(2)遺伝子回路推定システム:
発現プロファイルなど実験データから、遺伝子回路を推定するシステム
(3)パラメータ推定システム:
実験データから、遺伝子回路のパラメータを推定するシステム
(4)シミュレータ:
モデルの挙動をシミュレーションするシステム
(5)挙動解析システム:
シミュレーションと連動し挙動の解析を行うシステム
(6)実験計画立案システム:
遺伝子回路の推定結果などから、実験計画の示唆を行うシステム
2 生物学におけるシミュレーションの意義
重要な生命現象は、経時的に変化するすることが多々あります。『これを理解するためにはシミュレーションを行って、そのダイナミクスを少しでも理解するアプローチを突き詰めるのが現在もっとも有望な方法論であろう。』と説明されています。ここで、シミュレーションの目的について2つ挙げられています。
(1)すでに理解している情報をもとにモデルを構築し、シミュレーションによって、その挙動がどのようになるかを調べる。
(2)遺伝子回路の構造などを推定・検証するためにモデルを構築し、シミュレーション結果が実際の実験結果と一致するかを検証する。
(1)は、完成されたモデルをもとに、パラメータを変化させることにより、未知の現象を観察しようということでしょう。また、(2)は、遺伝子回路のブラックボックスをなくしていく作業だと考えられます。
3 シミュレーションへのアプローチ
シミュレーションを行うまでの、手順について説明されています。
3−1 モデルの記述と枠組みの定義
SBMLなどで、機械に分かるように記述する。(→詳細は『コンピュータの中の脳—情報基盤の進化輪—6.セマンティックウェブ』をご覧下さい)
3−2 ブラックボックス化
詳細におよぶ部分と不明な部分はブラックボックス化する。
3−3 モデル構造の決定
2つの手法
*トップダウン:大量の発現データから自動的に遺伝子回路の推定を行う。
*ボトムアップ:多量の文献から遺伝子の相互作用の情報を集めてモデルとしてまとめる。
→ 私は、ミドルアウトというか、ハイブリットというか分かりませんが、中間的なアプローチもあると考えています。
3−4 パラメータ決定
構造が定義されると、各々のプロセスに関わるパラメータを決定する。
→ その回路がどのような挙動を示すのかを正確に理解できる。
6 実験と計測
システムバイオロジーで要求される測定は、網羅的、定量的、体系的であることが重要です。これは、黒田先生のシグナル伝達解析、上田先生の概日応答遺伝子解析、児玉先生の転写ファクトリー解析を見ていてもよく理解できます。
6−1 網羅的計測
3つの網羅性があります。
(1)因子網羅性
ex) 遺伝子全てをアレイで測定
(2)時系列網羅性
現象の変化過程を追跡できる十分なタイムポイント
(3)項目網羅性
注目ている相互作用に対して、遺伝子発現、蛋白質相互作用、リン酸化、細胞内局在などをほぼ同一のサンプルでの同時測定が望まれる
6−3 体系的測定
別々の項目に対する測定が連動していて、(例えば、蛋白質・遺伝子発現・生理活性物質などの同時測定)データ間の統合的解釈が可能であるように計画されていることが重要だそうです。
【バックリンク】
● トランスクリプトーム,プロテオーム,メタボローム,フラクソームの統合による大腸菌の代謝解明
● in silico medicine 第5回 定例シンポジウムに参加しました
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